最近はテレビ番組などでも話題にされるようになってきたのでご存知の方も増えてきましたが、油(脂質)には「摂ってはいけない油」「控えめにしたい油」「意識して摂りたい油」があります。
折れない心身を育む~レジリエンス医学入門~
ボディのレジリエンスを高める方法 ~食事と栄養〜①
以前、ボディ・マインド・スピリット三位一体の生命観のうち、ボディのレジリエンスを高める方法について、腸内環境の観点から詳しく述べました。総論でもお断りしましたが、「三位一体」というくらいですから本来これらを厳密に分けることはできません。実際に腸内環境編でも、たとえば腸内細菌叢の是正により生体バリア機能が強化され外部からの異物侵入に対して抵抗性を高める一方で、それは同時に視床下部―下垂体―副腎(HPA)軸の応答を是正することを介して抗ストレス作用をもたらすこと、つまりボディ及びマインドのレジリエンスを高めるという事例をお示ししました。
今回からお話しする食事と栄養についても、同様に心身の両面に対してレジリエンスを高めますが、これは食事や栄養素といった物質的な介入によって心身のレジリエンスを高めるアプローチ、ともいえるでしょう。レジリエンスを高める食事と栄養のトップバッターとして、今回は「脂質(油)」を取り上げます。
脂質の重要性
まず、下図は細胞膜の模式図ですが、このように細胞膜は脂質が重なり合った二重構造をしています。細胞膜には、電解質(イオン)の流入出を調整しているイオンチャンネルというゲートがあり、細胞の内側と外側では、それぞれの電解質で分布が異なっています。
一般的に、細胞の外側にはナトリウムイオン、内側にはカリウムイオンが多く存在しています。こうしたイオンの分布差と、イオンの通りやすさの違いにより、活動していない静止状態の細胞では、細胞内の電位は細胞外に比べてマイナスに偏っています。
私たちが何らかの活動をする際、一番はじめに起こる生理的な現象が、細胞の外から細胞の中へプラスイオン(ナトリウムイオン)を取り込むことです。これによって細胞内外の電位が一時的に逆転することで「活動電位」という電気信号が発生し、これがさらに次々に神経を伝わって筋肉まで届くことによって、私たちは体を動かしたり言葉を発したりしているわけです。イオンの出入りを担うイオンチャンネルは細胞膜に埋め込まれたタンパク質であり、そのはたらきは膜の軟らかさ(流動性)の影響を受けると考えられています。そのため、細胞膜が硬いか軟らかいかの違いは重要です。先ほど述べた、摂ってはいけない油、控えめにしたい油、意識して摂りたい油の違いは、主にこの細胞膜を硬くしてしまうか、軟らかく保てるか、そして体内の炎症のバランスにどう関わるか、という部分にあります。
脂質を構成する脂肪酸は、大まかに、動物由来の油に多く含まれ常温で固体の飽和脂肪酸と、植物由来の油に多く含まれ常温で液体の不飽和脂肪酸に分けられます。不飽和脂肪酸は、化学構造の違いからさらにω3系不飽和脂肪酸(以下ω3)、ω6系不飽和脂肪酸(以下ω6)、ω9系不飽和脂肪酸(以下ω9)に分けられます。
このいずれの脂質が細胞膜に多く存在するか。実はこれが細胞膜の性質を決める上で重要な要素となります。

図:細胞膜の模式図
(松村浩道『対人関係のイライラは医学的に9割解消できる』マイナビ出版より引用)
摂ってはいけない油
植物由来であるがゆえに、身体に良いと思ってマーガリンを選んでいるという方がいらっしゃいますが、必ずしもそうとはいえません。前述したように、植物由来の油はその多くが常温では液体ですが、これを硬化するために水素を添加する処理(部分水素添加)によって作られてきたのがマーガリンで、かつてはトランス脂肪酸の代表ともいえる製品でした。現在は製法の改良が進み、含有量を大きく減らした製品が主流になっています。トランス脂肪酸は、細胞膜を硬くしてしまうだけでなく、LDLコレステロールを増やしHDLコレステロールを減らしてしまうことから、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患の発症や、認知機能の低下に関わっていることが指摘されています。
そのため、世界保健機関(WHO)は加工由来のトランス脂肪酸の排除を各国に呼びかけており、2025年の時点で60近くの国が規制を導入しています。日本では表示の義務や基準値が設けられていないため、含有量が気になる場合は、低減や不使用を表示した製品を選ぶと安心でしょう。
そのほかトランス脂肪酸を含む代表的な加工食品としては、ケーキなどに使うショートニングや、喫茶店などでよく見かける、コーヒーなどに加える小型のクリーム(コーヒーフレッシュ)などです。コーヒーフレッシュは、食品分類上の区分は「植物性油脂食品」や「植物油脂クリーミング食品」ですが、この表記にはご注意ください。つまり、トランス脂肪酸を含む加工食品の原材料には必ずしもマーガリンやショートニング、といった表記がされているわけではなく、このように「植物性油脂」や「加工油脂」などと記載されていることがあるのです。スーパーなどで買い物をする際に、手に取った商品にこれらの表記をみかけたら、そっと棚に戻したほうが無難かもしれません。
控えめにしたい油
続いて、控えめにしたい油をみていきます。ω6の代謝産物であるアラキドン酸は、肉や卵などに多く含まれ、体内で炎症を促すプロスタグランジンなどの材料になります。注意したいのは、たとえばサラダのドレッシングに使われる油や、加熱調理に使う油の多くがω6だということです。
べに花油やヒマワリ油、ゴマ油などがこれに該当します。ですので、加熱調理には不飽和脂肪酸のなかでは比較的熱に強いオリーブオイル(ω9)、あるいは不飽和脂肪酸の仲間からは外れますが、熱に非常に強いココナッツオイルも選択肢になります。ただし、ココナッツオイルは飽和脂肪酸が主体で、LDLコレステロールを上げることがメタ解析で示されているため、使いすぎには注意が必要です。
ここで誤解のないように申し上げておきますと、ω6も必須脂肪酸であり、からだにとって必要不可欠な油であるということです。また先に挙げたω6の油は、脂溶性抗酸化物質の代表ともいえるビタミンEを豊富に含むなどのメリットもあります。問題なのはこれらの過剰摂取であり、ω3とω6の摂取比率が重要になります。
現代の欧米化した食生活では、重量%で計算した際に、ω3が1に対してω6が10以上になってしまっている場合が多いのです。人間が狩猟生活を行っていた時代にはω3とω6の比は約1:1であり、脳にとってはそれくらいが理想であるという研究がありますが、そこまでもっていくのはなかなか難しいのが現状です。私は、患者さんにはなるべく、ω3が1に対してω6が4以下になるようにしましょうと指導しています。
意識して摂りたい油
意識して摂りたい油は、ω3です。ω3を代表する代謝産物として、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)が挙げられます。以前、過剰なストレスは海馬の神経新生を抑制してしまうと述べましたが、EPAやDHAには海馬の神経新生を促進する働きがあることが、動物実験などで示されています。
EPA・DHAは魚油、特にサンマ・イワシ・ブリ・サバなどの青魚に多く含まれます。なるべく魚を積極的に摂ることが望ましく、少なくとも週に3食は魚料理を食べたいところです。しかし、魚が苦手な方や、嫌いではないけれども食べる機会があまりないという方もいらっしゃるかと思います。
そんな方にお薦めなのが、α-リノレン酸を豊富に含む亜麻仁(アマニ)油、荏胡麻(エゴマ)油、しそ油などです。α-リノレン酸は生体内で一部がEPA・DHAに変換されます。ただし変換の効率は高くなく、とくにDHAへの変換はごくわずかとされているため、これらの油は魚を補う位置づけで活用するとよいでしょう。ここで気をつけていただきたいのは、α-リノレン酸はとても酸化しやすく熱に弱いため、保管方法や調理方法に工夫が必要である点です。なるべく冷蔵庫で保管するようにしたうえで、非加熱調理、たとえばサラダのドレッシングとして利用したり、食べ物が冷めてから使うようにしたりすると良いでしょう。
ω3系脂肪酸には多くの論文が存在しますので、次回それらの一部をご紹介したいと思います。
※本記事は「統合医療でがんに克つ」(株式会社クリピュア刊)にて掲載された松村浩道先生執筆の「折れない心身を育む」より許可を得た上で一部修正のうえ転載しております。
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