はじめにSIBOの診断法ですが、実はSIBOの診断基準は未だ確立されていません。前回述べたように、SIBOは小腸内で細菌が異常増殖した病態ですので、これまでは消化管内視鏡などによって採取された小腸の吸引液を細菌培養し、細菌数が10万CFU/㎖※1を超えた場合にSIBOと診断されてきました。
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前回は、腸内細菌叢のバランスが崩れたディスバイオーシスの典型であるSIBOという病態について、さらにそれによって引き起こされるLGSについて解説しました。今回はまず、SIBOの診断法や治療法、予防法についてお伝えします。
空腸吸引液の細菌培養
前回、胃酸の分泌不足がSIBOの原因になり得ることを説明しましたが、胃酸の分泌を強力に抑えるPPI※2という消化性潰瘍治療薬の使用は、SIBOの発症と密接に関係しているというメタ解析※3があります。ただしその結論には条件があって、すなわち、小腸吸引培養を行って診断された場合に限って、PPIの使用とSIBOの発症は密接に関係する、と結論しているのです。このように、小腸液吸引培養の感度と特異度※4は、次に述べる呼気試験に比べ高いと考えられています。
しかし、比較的信頼性の高いこの検査方法にも、いくつかの問題があることが指摘されるようになりました。まず、採取部位については、原則的には空腸液の採取が推奨されているものの、一部の研究では十二指腸吸引液で行われているなど、統一されてないことが挙げられます。また、空腸から検体を採取するということは、より離れた領域での細菌の異常増殖を見落とす可能性があります。実際の臨床では、空腸からさらに離れた部位で、より頻繁に細菌異常増殖がみられると考える医師もいます。
さらに、空腸吸引液の培養は、技術的に決して容易ではありません。そのうえ、検体を採取するには内視鏡などの侵襲的な検査が必要で、細菌培養の工程においては、好気性菌と嫌気性菌※5の両方の培養が必要なこと、そもそも嫌気性菌の培養は技術的に難しいこと、検体採取時に口腔内の細菌が混入しやすく疑陽性にも注意を要することなどが、本検査を実施する際のハードルを高くしてしまっています。
また、10万CFU/㎖以上という細菌数の基準は、胃がんに罹患した患者さんに、ある特定の術式を行った場合でのデータに基づいたものであり、その基準をそのままSIBOの診断に用いることについては懐疑的な意見もあります。このような理由から、現在日本の臨床の現場では空腸吸引液の細菌培養はあまり用いられていませんが、大学などの研究施設においては、これらの問題を改善させたうえで再評価する気運が高まりつつあるようです。
呼気試験による代謝物測定
これに対し、SIBOの非侵襲的な検査法として呼気試験があります。呼気試験は、ラクツロースやグルコースなどの糖基質を経口的に投与し、それらが腸内細菌によって代謝され産生されるガス(水素、メタンなど)を呼気中で検出し、経時的に計測する方法です。
健常者においては、大腸内の細菌数と比較すると小腸内の細菌数は圧倒的に少ないので、通常は糖基質が大腸内に到達した時点で、呼気中の水素・メタンはピーク値を示します。SIBOでは糖基質が大腸に到達する前に、すなわち小腸においても異常増殖した細菌により糖が代謝されるために、経時的に測定された呼気中の水素・メタンが早期に観察されたり、あるいはピーク値が小腸と大腸の2カ所で確認されたりします。
呼気試験は、空腸吸引液の細菌培養に比べ、より簡便で、かつ検査費用も安価であるため、総じて費用対効果が高い検査方法といえますが、前述のように呼気試験の感度・特異度は、空腸液吸引培養に比べると高くなく、さらにグルコースを基質とした場合とラクツロースを基質とした場合とで、感度・特異度が違ってくるなどの問題点があります。
以上のように、SIBOの診断基準はまだ確立しているとは言えませんが、臨床の現場では、これらの検査のうち主に呼気試験が用いられ、臨床症状などから総合的にSIBOと診断しているのが現状です。
SIBOの治療法
続いてSIBOの治療についてみてまいりましょう。まず、SIBOの原因として何らかの背景疾患がある場合、たとえば慢性膵炎や、肝硬変・クローン病・甲状腺機能低下症などによって起こる化管運動障害が原因となって細菌異常増殖が生じている場合には、それら背景疾患の治療が優先されます。ベンゾジアゼピン系薬剤や麻薬などの医薬品は消化管運動障害が生じることで、また前述したPPIは胃酸の分泌が減少し未消化の食物が小腸に届くことで、それぞれSIBOの原因となることがありますので、これらの薬剤がSIBOの原因と考えられる場合には、薬剤の中止を考慮します。
異常増殖した細菌を減少させる目的では、リファキシミンという腸から吸収されない特徴を持つ抗生剤や、メトロニダゾールという抗真菌剤などが使われます。これまでの臨床研究においては、メトロニダゾールよりもリファキシミンのほうが改善率が高いとされていますが、一方で再燃・再発も多く、治療を繰り返す必要があること、用いる抗生剤や抗真菌剤によっては、連用することで小腸粘膜を傷つけたり、かえって腸内細菌叢を撹乱してしまったりする可能性があるため注意が必要です。
こうした理由から、私は抗菌作用の強いプロポリスやオレガノ・セージなどの天然成分のほか、患者さんの同意が得られた場合には、オゾン化オリーブオイルの経口摂取をお薦めすることもあります。オゾン化オイルは、細菌・真菌・ウイルスに対して効果を発揮し、かつ耐性菌などを作らないという特徴があります。
また、乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスの有効性を示す論文も多数あります。近年、プロバイオティクスの臨床応用にはめざましいものがあり、慢性炎症の抑制や免疫調整、アレルギーの治療などに応用されています。これらの疾患に対して用いられるプロバイオティクスは、菌体成分自体が私たちの細胞に存在する受容体(鍵穴)に結合することで効果を発揮するため、必ずしも生菌(生きた菌)である必要はなく、死菌(死んだ菌)であっても効果が期待できます。しかし、生菌は天然の抗生物質ともいえる「バクテリオシン」を産生しますので、異常増殖した菌を抑制する目的で使用する場合には、生菌の方が有利です。生きたプロバイオティクスを摂り続けると、腸内で優勢菌として増えていき、個人差はあるものの概ね4〜6カ月でほぼピークに達すると考えられていますが、それに伴いいわゆる悪玉菌は減少することがわかっています。生きたビフィドバクテリウム・ロンガムというビフィズス菌を毎日服用することによって、大腸菌属が100分の1程度に減少したという研究もあります。
食事療法としては、低FODMAP食が有効と考えられています。FODMAPとは、小腸では吸収されにくい発酵性の糖質の総称です。Fは「fermentable(発酵性の)」、Aは接続詞「and」
で、残りのODMPは、それぞれ糖質の頭文字から取っています。具体的に、ODMPはそれぞれ、Oligosaccharides:オリゴ糖(豆類、小麦、玉ねぎなど)、Disaccharides:二糖類(牛乳、ヨーグルトなど)、Monosaccharides:単糖類(果物、蜂蜜など)、Polyols:ポリオール(人工甘味料、イチジクなど)を意味します。これらFODMAP食は、摂りすぎると腹部の膨満感や痛み、便秘、下痢などを引き起こしたり、腸内に長く留まって発酵し、多量のガスを発生させたりする場合があります。SIBOが疑われる場合には、これらFODMAP食を一定期間控えていただき、その後少しずつ制限を解除していく方法をとります。呼気検査によって胃腸通過時間の遅延が疑われる症例では、消化管蠕動促進薬の併用が有効なケースもあります。
さらに、前回述べましたように、さまざまなストレッサーにより腸内細菌叢のバランスが崩れますので、ストレス・マネジメントの考え方も重要です。詳しくは別稿に譲りますが、当院ではバイオフィードバックという手法を用いて、患者さんご自身がストレスをコントロールできるようサポートしています。
自分でできるSIBOの治療・予防法
さて、これまで主な治療法について述べてきましたが、今日からご自身で簡単にできるSIBOの治療・予防法があります。それは咀嚼(そしゃく)です。SIBOの原因として、食物を消化するための胃酸が不足している場合もありますが、咀嚼を徹底すれば、たとえ胃酸が少なかったとしても未消化のまま小腸に届く食物を減らすことができます。また咀嚼によって、唾液中のアミラーゼ分泌が促進しますので、消化を助けることにも繋がります。
さらに、咀嚼をすることで自然にゆっくり食事をすることになりますので、急激な血糖の上昇を抑えることで、がんの好物ともいえるブドウ糖の過剰供給を少なくすることにも繋がります。私は患者さんに、「1度食べものを口に入れたら噛むところがなくなるまで咀嚼してから飲み込んでください」と指導しています。とても簡単な習慣ですが、これだけで体調が良くなる方も大勢いらっしゃいますので、ぜひ皆さんにも実践していただけましたら幸いです。
【注釈】
※1 CFU:Colony Forming Unit(コロニー フォーミング ユニット)の略で、細菌検査の結果に使用される単位のこと。
※2 PPI:Proton pump inhibitor プロトンポンプ阻害薬。
※3 メタ解析:過去に行われた複数の臨床研究のデータを収集・統合し、統計的方法を用いて解析した非常に信頼性が高い手法。
※4 病気がある群での検査の陽性率(真陽性率)を感度、病気が無い群での検査の陰性率(真陰性率)を特異度と呼ぶ。
※5 好気性菌は生育のために酸素を必要とする細菌。一方、嫌気性菌は生育に酸素を必要としない細菌で、腸内細菌はほとんどが嫌気性菌。
※本記事は「統合医療でがんに克つ」(株式会社クリピュア刊)にて掲載された松村浩道先生執筆の「折れない心身を育む」より許可を得た上で転載しております。
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