加齢性黄斑変性症とビタミンDの濃度の関係については、今までに数百の論文が発表されていますが、はっきりとした機序は明らかとなっていません。けれども、加齢性黄斑変性症患者においては、血中ビタミンD濃度が低いということは間違いないと思われますので、発症の予防、治療にビタミンDが効果を発揮する可能性は十分にあると思われます70)。
ビタミンDの健康効果vol.3
近年、ビタミンDは「骨のビタミン」だけではなく、全身緒健康を支える”万能ホルモン”のような働きをすることがわかってきました。
ビタミンDは、目・脳・心・生殖・免疫など、全身の健康を支える大切な栄養素です。
安全性も高く、適量のサプリメントを活用することで、健康の維持や病気の予防が期待できます。
加齢性黄斑変性症
生殖への影響(不妊症、勃起不全)
ビタミンDが女性の不妊と関係があることは以前から指摘されてきました71-76)。まだ科学的根拠は明らかではありませんが、ビタミンDは排卵機能不全、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、子宮筋腫などにおいて調節的な役割を果たす可能性が示唆されています。また、子宮内膜症もビタミンDの低下が免疫調節機能や抗炎症機能の低下を引き起こすことから発症すると言われています74)。
更に、ビタミンDの欠乏症が性腺機能低下症、妊孕性の低下と関係があることが示されています75)。不妊治療を受けている女性における研究では、ビタミンD濃度と子宮内膜の厚さ、卵胞数との間に逆相関の関係を認めました76)。ただし、生殖機能に対するビタミンDの効果については不明の点も多く、付随して引き起こされる低カルシウム血症、エストロゲン調節不全による間接的なものであると解釈されているようです。けれども、今までに得られている知見から考えると、不妊症の治療時にはサプリメントでビタミンDをしっかりと摂ることが望ましいと思われます。
また、男性では、ビタミンDが精液の質と精子の数、運動性、形態に関連し、性機能の健康に影響を与えていることが示唆されています77,78)。さらに、勃起不全についてもビタミンDとの関係が指摘されています。Ⅱ型糖尿病患者の男性における勃起不全と血清ビタミンD濃度との間には有意な関連が認められています79)。
月経困難症、月経前症候群、子宮筋腫
ビタミンDは、カルシウムの恒常性、循環ステロイドホルモン、神経伝達物質の機能に影響を及ぼすことによって女性の生殖に重要な役割を担っているとされています80)。月経困難症、月経前症候群の患者にビタミンDを投与した研究81)では、これらの疾患の症状が有意に軽減しました。月経前症候群の精神的な症状にも改善が認められました。また、子宮筋腫についても、ビタミンDとの関係が強く示唆されています82)。これらの疾患の治療法は漢方薬、ピルによるものが主流となっており、副作用を気にする女性が多いようです。今後ビタミンDのサプリメントによる治療の普及が望まれます。
妊娠合併症、子供の将来の慢性消耗性疾患
妊娠中のビタミンDの欠乏症は、子供の将来の慢性消耗性疾患(関節リウマチ、多発性硬化症、パーキンソン病、慢性閉塞性肺疾患、強皮症、パーキンソン病、ALS、アルツハイマー病、認知症など)のリスクを増加させることがわかってきています83)。そして、ビタミンD欠乏症がある妊婦にビタミンDのサプリメントを与えたところ、妊娠合併症(子癇前症、妊娠糖尿病、早産)を大幅に減少させることが報告されました84)。ある調査では母親の76%、新生児の81%がビタミンD不足(血清濃度20ng/mlをカットオフ値とした場合)であることが報告されたのです85)。
我が国では、以前、母子手帳に「赤ちゃんに日光浴をさせましょう」という記載がありましたが、現在ではこの項目は削除されてしまいました。日光浴が皮膚がんの危険性を伴うということで削除されたのですが、これも子供のビタミンD不足の原因となっており、様々な疾患の増加につながっている可能性があります。
母乳保育だけではビタミンDが不足することも確認されている86)ため、母親は自身と子供の健康のため、妊娠前はもちろん、妊娠中もビタミンDをサプリメントでしっかりと摂取し、出産後は母乳保育であれば必ず赤ちゃん用のビタミンDシロップを与えるようにすることが望ましいと考えられます。
ビタミンDは、出生後の乳児の腸内細菌叢の形成に影響を与えることも報告されています87)。この研究ではビタミンDの濃度が高いほど、豊かな腸内細菌層が観察されました。腸内細菌層が免疫の状態をコントロールしていることを考えると、ビタミンD濃度を高めることによって、子供の感染性疾患やアレルギー性疾患も予防することが期待されます。
うつ病
ビタミンDがうつ病と密接な関係があることはすでに多くの研究で明らかとなっており、高齢者や、心臓病、膝関節疾患、多発性硬化症、うつ病患者ではビタミンDの血中濃度が低いことが確認されています88)。また、妊娠中のビタミンDの欠乏症は産後うつ病の発症と関係があることも指摘されています。そして、ビタミンDの投与はうつ病患者の症状を軽減することが示唆されました89)。
このビタミンD欠乏とうつ病に関する知見は、日照時間が少ない地域にうつ病が多いという事実とも矛盾しないものでしょう。
自閉症
自閉症とビタミンDの欠乏症の間には密接な関係があることが指摘されてきました90)。母親の妊娠中、および出生後のビタミンD不足が自閉症の発症に影響を与えるとされています。
「Autism and Vitamin D - Emily's Story」91)は、3人の自閉症の子供たちを高容量のビタミンDで治療し、症状の劇的な改善をみたエミリーという母親の物語ですが、これを読むといかにビタミンDが自閉症に効果があるかを理解することができます。エミリーは米国のビタミンD協会92)の会長であるCannell医師の指導の下でこの治療を行っています。自閉症の発症予防、症状緩和のために今後ビタミンDが多く活用されることになるのは間違いないと考えられます。
アルツハイマー病
アルツハイマー病に対するビタミンDの影響については非常に多くの研究がなされてきました93-100)。認知機能障害において、ビタミンD濃度の低下が影響を与えていることが示唆されています94,95)。アルツハイマー病に関する最近のビタミンDとアミロイド病の研究では、ビタミンDがアルツハイマー病におけるアミロイド前駆タンパクの処理、および産生、アミロイドβペプチドのクリアランスを調節していることが示されています96-99)。つまり、ビタミンDは脳細胞においてアルツハイマー病の原因となっているβアミロイド蛋白の産生を抑え、排泄を増加させて脳への沈着を防ぐという働きを持つのです。
また、ビタミンD介入研究100)では、老人性認知症、軽度認知障害およびアルツハイマー病を有する患者において認知能力の有意な改善が期待されています。高齢に伴いビタミンD濃度が低くなることを考えるとアルツハイマー病予防のためにも積極的なビタミンDの摂取が望まれます。
パーキンソン病・多発性硬化症
パーキンソン病、多発性硬化症においても、アルツハイマー病と同様に患者のビタミンDレベルが非常に低いことが明らかとなっています101-104)。まだその機序については明らかとなっていませんが、ビタミンDの充分な摂取によってこれらの疾患を予防できる可能性が示唆されています。
老化防止、テロメアの延長
ビタミンDの濃度が高いとテロメア長が長く保たれて老化を防止することが示唆されています105,106)。今後、アンチエイジングのためにもビタミンDのサプリメントを積極的に摂ることが行われるようになるでしょう。
【終わりに】
今まで述べてきたように、ビタミンDは多くの疾患を改善し、死亡率を低下させる可能性を秘めています107)。エビデンスの質としてはまだ弱い研究も多いのですが、そのことによってビタミンD治療の可能性が否定されるものではないと考えています。さらに言えば、推奨する投与量では副作用がほとんどないと考えられるため、健康のためのビタミンDのサプリメント摂取に大きい利点があることは間違いないでしょう。
食品でビタミンDを多く含むのは魚類(サンマ、イワシ、サケ、ウナギなど)、きのこ類、卵黄、バターなどです。けれども、食事からビタミンDを毎日5000IU〜10000IUを摂取するのは至難の業であると言えます。また日光浴も大切なのですが、前述のように日焼け予防が推奨されている現在では、ビタミンDの生成という観点からはほとんどの人が不十分な状況です。
慶應医学部の女性職員に対して行われたビタミンD濃度の研究では、多くの女性がビタミンD不足であることが示されました108)。それまで考えられてきたように高齢女性のビタミンD濃度が低い傾向ではなく、若い女性の多くがビタミンD不足であることが分かったのです。2023年に慈恵医大が発表した論文では、東京都で健康診断を受診した人のほとんどはビタミンDが不足している状態であったと報告されています。今や サプリメントによるビタミンD摂取はすべての人において必須であるといえるでしょう。
けれども、ビタミンDのサプリメントは我が国において普及率が非常に低い状況です。伝統的な日本発のサプリメントである肝油ドロップにはビタミンDが含まれていますが、残念ながらその含有量は1粒に200IUなのです。成人に対して1日2粒摂取を推奨していることを考えるとビタミンDとしては400IUであり、効果を得るためには不十分であると思われます。
充分な量のビタミンDを摂取することによる疾病予防、健康増進効果は非常に大きく、サプリメントの積極的な摂取が推奨されます。
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