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折れない心身を育む~レジリエンス医学入門~

ボディのレジリエンスを高める方法~腸内環境(その⑦)

この記事の執筆者

スピックメディカルパートナー 鎌倉元氣クリニック

1993年日本医科大学医学部卒業。同大学付属病院麻酔科学教室、関東逓信病院(現NTT東日本関東病院)ペインクリニック科、医療法人誠之会氏家病院精神科・麻酔科などを経て2017年10月よりスピッククリニ ... [続きを見る]

自己紹介

患者様に寄り添う医療をモットーにしています。

プロバイオティクスとは、適切な量を摂ることで健康に良い影響をもたらす「生きた微生物」のことです。乳酸菌やビフィズス菌などが代表的で、腸内環境を整えるだけでなく、便通の改善や感染予防、免疫バランスの調整など幅広い働きが報告されています。さらに、病原菌の定着を防いだり、抗菌物質を産生したりするほか、腸のバリア機能を高める役割も担います。食品成分の吸収を助ける働きもあり、日々の食生活を通じた健康維持に役立つ存在として注目されています。

プロバイオティクスとは

最近至るところで目にするようになったプロバイオティクスという用語ですが、プロバイオティクスとはアンチバイオティクス(抗生物質)と対比される言葉で、「適切な量を摂取することにより宿主に健康上の有益性をもたらす生きた微生物、またはそれを含む製品や食品」と定義されています。

プロバイオティクスとして用いられる菌属はさまざまであり、有名なラクトバチルス属菌(乳酸菌)、ビフィドバクテリウム属菌(ビフィズス菌)以外にも、エンテロコッカス属菌、ストレプトコッカス属菌、クロストリジウム属菌、アスペルギルス属菌なども用いられています。

また、プロバイオティクスは必ずしも腸内環境をターゲットとして経口摂取するものに限らず、ローションやクリームに配合して経皮的に用いるなど、別の経路での使用も含んでいますが、今回は連載の主旨から腸内環境に関わるプロバイオティクスを取り上げます。

プロバイオティクスの効能

プロバイオティクスの研究は日進月歩ですが、これまでに公表された論文ではプロバイオティクスの効用として、腸内細菌叢の是正作用、下痢や便秘の改善作用・予防作用、感染防御作用(宿主が感染症に罹りにくくなる)、免疫活性・調整作用(アレルギー性疾患の改善・緩和)、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)の改善作用、発がん抑制作用などが示されています。

これらの効果を説明し得る作用機序として、概ね次の6つが想定されています。

(1)腸粘膜接着による病原微生物の排除

前述したような作用を発揮するにあたっては、プロバイオティクス細菌が宿主の腸上皮に接着して、そこで増殖しコロニー(細菌による集落)を形成することが重要です。

連載第6回で生体バリア機能における粘液層について述べましたが、その主要成分であるムチンは腸管上皮から分泌されます。

ムチンはペプチド鎖(アミノ酸が鎖状につながったもの)と糖鎖(糖が鎖状につながったもの)からなる複雑な構造をしていますが、乳酸菌やビフィズス菌はその菌体表層にムチン糖鎖と結合することができる線毛を持っており、これにより腸上皮への接着が促されます。

宿主の腸上皮への接着は病原微生物にもみられますが、あらかじめプロバイオティクス細菌がコロニーを形成して接着部位を占有している場合には、これらの病原菌の接着や定着を阻んで排除することが出来るわけです。

(2)有機能・抗菌性物質の産生

一部のプロバイオティクスは、酢酸や乳酸などの有機酸(酸性の有機化合物の総称)のほか、バクテリオシンという抗菌性物質を産生することがわかっています。

酢酸や乳酸はグラム陰性菌に対する強い抑制作用を持っており、プロバイオティクスの持つ病原微生物抑制効果の主たる物質と考えられています。

有機酸は病原菌の細胞に入り、細胞質内のpHを低下させることなどによって病原微生物を抑制します。またプロバイオティクスのなかには、有機酸以外にも病原菌を抑制する代謝物を産生するものがあります。

例えば、乳酸菌属の一部が産生する安息香酸などにも抗菌作用があることが知られています。

次にバクテリオシンについてですが、ラクトコッカス・ラクチス由来のナイシンや、ラクトバチルス・アシドフィルス由来のラクタシン、アシドフィルシン、アシドシン、ガセリシンのほか、ラクトバチルス・プランタルム由来のプランタリシンなどのバクテリオシンは、食中毒を引き起こす病原菌などに対して天然の抗生物質として作用することがわかっています。

また、ビフィドバクテリウム・ビフィダム由来のビフィドシンはグラム陽性菌に対して抗菌活性を持つことがわかっています。

(3)腸管上皮からの抗菌ペプチド分泌促進

生体バリア機能における粘液層で重要な役割を果たしている抗菌ペプチド(Antimicrobial peptide:AMP)には、ディフェンシン、カテリシジン、C型レクチンなどがありますが、これらAMPは病原微生物の細胞壁や細胞膜に対して作用することで抗菌効果を発揮します。

これは前回も述べたToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)を介した病原菌認識機構による一連の反応ですが、一部のプロバイオティクス細菌は宿主の腸管上皮細胞からのAMP分泌を促して病原微生物の腸管への接着を阻止する働きを持つことがわかっています。

具体的には、ラクトバチルス・クリスパタスは腸管上皮細胞のTLRを介しβ-ディフェンシンを産生誘導することで、カンジダ・アルビカンスという真菌からの感染を防ぐことが示されています。

(4)免疫系の調整

腸の粘膜固有層という部分にはリンパ球やマクロファージ、樹状細胞などの免疫細胞が病原菌といつでも戦えるよう常に控えています。乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスの一部は、その菌体成分が宿主の空腸や回腸に点在する免疫器官であるパイエル板に存在する特殊な腸管上皮細胞(M細胞)や、腸管腔内へあたかも手を伸ばすように待機している樹状細胞と接触し、これらの細胞からさまざまなサイトカインを産生誘導することがわかっています。

こうしたサイトカインを介してTリンパ球やマクロファージなどと情報伝達を行うことで、プロバイオティクスは間接的に免疫システムを調整するわけです。

具体的には、TNF-αなどの炎症性サイトカインの抑制作用や、IL-10などの抗炎症性サイトカインの産生促進作用、炎症の促進に深く関わる核内転写因子NFκBの抑制作用などが報告されています。

(5)腸管上皮バリア機能の増強

これまで何度か腸管バリア機構としてのタイトジャンクション(Tight Junction:TJ)について述べてきましたが、TJの形成に先立って、細胞間接着分子であるE-カドヘリンを介したアドへレンスジャンクション(adherens junction:AJ)と呼ばれる接着機能構造体の形成が必要であることがわかってきました。

一部の乳酸菌は、E-カドヘリンをコードする遺伝子を制御したり、あるいはアポトーシスを促進するリン酸化酵素を制御するペプチドを分泌し腸管上皮細胞のアポトーシスを抑制したりすることを介して、腸管バリア機能を増強することが明らかになっています。

(6)食品由来機能性成分の代謝

一部のプロバイオティクスは、食品中の機能性成分に作用してその機能性をさらに高める働きを持つことがわかっています。

緑茶に含まれるカテキン類は抗酸化作用が強いことで注目されていますが、その多くはガレート基という構造を持つエステル型というタイプであり、エステル型カテキンは腸内で食品成分と複合体を形成し、そのほとんどは体外に排出されています。

ところが、ラクトバチルス・プランタルムなどの一部の乳酸菌はエステル型カテキンを加水分解する酵素を産生することができ、非エステル型カテキンに変化させることによって腸管から吸収されやすくなることが明らかにされています。

ラクトバチルス・プランタルムは漬物に含まれる乳酸菌ですので、漬物と緑茶の組み合わせによる抗酸化作用の増強は、まさに和食パワーの面目躍如といったところでしょう。

さらに、ダイゼインという大豆イソフラボンの一種は更年期障害や骨粗鬆症、乳がんの予防に有効であると考えられていますが、そのままでは腸管からの吸収効率が良くありません。ラクトコッカス・ガルビエなどの乳酸菌は、ダイゼインをより吸収されやすいエクオールに変換することがわかっており、このような作用を有するプロバイオティクスはエクオール産生菌として注目されています。

 

※本記事は「統合医療でがんに克つ」(株式会社クリピュア刊)にて掲載された松村浩道先生執筆の「折れない心身を育む」より許可を得た上で転載しております。

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